ここか・・・。
去年のクリスマス時期に聞いた噂
「動いて、話す人形を売っている美容院があるらしい」
その噂がどこから流れてきたのか定かではない。
どういうわけかその噂の店の前に今、いる。
<注意事項>
①一度来られた方のご注文はお受けいたしません。
②返品、交換いたしません。
僕はもう閉店した明かりが消えた店へと足を踏み入れる。
チリン、チリン・・・音色のいい音が店内に鳴り響く。キッラっと何かが光ったと思ったときには、その人がいた。
「・・・いらっゃいませ、黒田さん、ですね?」
その人が静かに近づくにつれ、嗅いだ事のある花の匂いがする。
「メールでもお願いしましたが、この店の場所は秘密にしておいてください。そうでなければお受けいたしません。大丈夫ですか?」
僕が返事をすると満足したようにうなずいて、いくつかの箱を目の前おいた。
「では、この箱からお好きなものをお選びください」
そして僕が選んだ箱を手にまた暗闇へと戻っていく。
ものの数分、本当にどうして作っているのだろうか、戸惑う暇もないくらいに出てた。
「お待たせしました。この中に入っていますので。もしもまだ動かないようでしたら、お湯の中に入れてください。ありがとうございました」
明らかに、質問はするな、早く帰れと無言で言っている様子だ。
そそくさとその店を後にする。
家に帰る前に誰もいない公園でそっと覗いてみた。
寝息を立てることもなくその人形がいた。
やっぱり・・・。そうだったんだ。
ネットの掲示板にあった書き込み
>>あいつは髪を使って人形を作っている
みんな荒しだと思い、スルーしていたけど僕はこいつの「あいつ」ってかき方が妙に気になった。
もしかすると、知ってるのか?
どうしても確かめたかった、本当に髪で人形が作れるのかどうか。
もし作れるとしたら・・・・。
そして、今日あの店に行き、店員が見ていない隙に箱の中を見て確信したのだ。
やつは本物だ。
すぐに持参していた髪と、中の髪を入れ替え、何食わぬ顔で「じゃ、これで」とわたした。
幸いな事に彼は何も気づいていなかった。
こうしてまた君に出会えるなんて。
数ヶ月前に交通事故で亡くなった彼女のミニチュアを見ながら、涙を流さずにはいられなかった。
◆◆このお話は髪人形 とリンクしております。良かったらそっちも読んでくださいね。イラストは友達のAちゃんに描いて頂きました。ありがとう!◆◆