私は押し入れが好きだ。


押し入れと聞くと、「暗い」「荷物であふれている」「お仕置き」などの、マイナスイメージの言葉しか思い浮かばないだろう。

でも、私は子どもの頃からこの、暗いどこかへ通じていそうな押し入れが好きなのだ。


押し入れにはさまざまな顔がある。

気持ちが落ち込んだ時は、暗闇から何者かが現れて、どこかへ連れて行かれそうになったり

反対に高揚している時は、暗闇が素敵な夜空になる。


出歩くのも億劫になるほどの寒い日が続いていたが、その日は久しぶりの気候だった。

外に出て新鮮な空気を吸い込みながら、前を歩く人に目が留まった。

私よりも少し背が高い、襟元が寒そうな男の子。

同じようにコンビニに入り、チラッと観察してみる。

あ、好きな顔かも。


そして、きたときと同じように彼とコンビニを後にした。


「ね?どう?」

「う~ん。やっぱり押し入れは 窮屈だよ。」

「そう?きっと2人で入ってるからだと思うけど。ねぇ、ちょっと私出てみるね。一人だったら絶対気持ちいいって!」



私は押し入れが好きだ。

でも、最近は彼が占領していて押入れに入ることが出来ない。

ちょっと残念だけど、これで彼も押し入れの素晴らしさがわかったことだろう。

彼の腐った匂いをかぎながら、そろそろ押し入れが恋しくなってくる。

「また引っ越そうかな。」