駐車場でその犬を見た。


茶色で尻尾が短い犬。

野犬なのか首輪もしていなければ、飼い主もいないようだ。

私は犬が苦手なのでその犬の向う先を確認しつつ、車に向う。


こっちに気が付きませんように。


祈りながらそっーと歩く。

だけど、鍵を開ける時に気がつかれてしまった。

その犬は、「なんだお前」というかのように、怪訝な顔でこちらを見つめる。

今にも走ってきそうな、そんな緊張感の中、やっと私は車に乗り込むことが出来た。

発進させ、バックミラーで茶色い犬を確認する。


帰ってきた時にはもうどこかに行っていますように。


レンタル屋に寄ってから帰ったのでいつもよりも遅くなった。今日のご飯は何にしようかな・・なんて考えながら駐車場に入る。

借りたかった「バイオハザードⅢ」が無かったので、代わりに借りた邦画のDVDを片手に車を降りると歩いて家に向う。


ふと視線を感じて左横を見ると、朝見たあの茶色の犬がそこにいた。

すっかり犬のことなんて今の今まで忘れていた事に、後悔しながら、ジリジリと後ろに下がると、それと同じように近づいてくるのが見えた。


どうしよう。

どうしよう。


その犬は吼えることなく近づいてくる。

この状況で吼えられていたら、きっと後ろを向いて走り出してしまっていただろう。


どうしよう。

どうしよう。


ジリジリ、ジリジリ・・・。


私と犬の勝負が始まった。

にじり寄ってくる犬と、それを避けたい私。


とうとう何個目かの角を過ぎたところで、私がダウンしてしまい足が止まる。


もう、この緊張感に耐えられない!噛むんなら噛みなさいよ!


心の準備が整ったところで、犬が突進してくる。

そしてそのまま、私が向うであったであろう前方へと姿を消した。


どれだけの時間が経ったのかわからない、犬がもういないことを確認してやっと気が付いた。

いったいここはどこなんだろう。

迷い犬と一緒に私も迷い人。


今日も帰り道を探してます。

あぁ、DVDもうずいぶん延滞してるなぁ。