寝室のテレビのリモコンがない。
いったいどこへ行ってしまったと言うのか。
歩くわけはないから、きっとどこかにあるはずだ。
きっとクルミのやつだ。
クルミとはもう5年の付き合いで、1年も経たないうちから、こいつとは合わないと感じてた。
実は一度別れている。
なのに5年も続いているのは、別れた後に妊娠が発覚したからだ。
俺は世間で言う「責任」をとって、クルミと結婚した。
どうでもいい女と、これからも続くであろう日常に嫌気がさす。
自分が付いていないように思う。
クルミも、俺のことなんて全く尊敬している様子もない。
そう、もう別れた時点で、2人の時は永久に止まっていたんだ。
今では、会話も忘れるほどに。
一番近くにいるのに、一番遠い存在。
それがクルミだ。
それにしても、リモコンが見つからない。
テレビを見たければ、直接本体から操作すればいいのだが、あるはずのものがないと、どうしても欲しくなるのが人間の心理。
俺はイライラしながらベットの下を探す。
ん?
なにか手ごたえがある。
手に治まったちいさなもの・・・それは日記だった。
俺は日記を書かないから、きっとクルミのものだろう。
少し抵抗はあったが、好奇心に勝てず、そいつをめくっていた。
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○月○日
今日は隆と会う。やっぱり隆とは相性がいいみたい。
それにしても、あいつ、一緒の部屋にいるだけでイライラする。
どこかに消えてくれないかな。
○月○日
隼人くんはかわいいなぁ~。
近くにできたホテルに行って見たいといったら、連れて行ってくれた。
やっぱり、綺麗なのはいい。
次もあそこにしよう。
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読みながら愕然とする。
クルミは浮気をしているのだ。
しかも、複数と・・・。
頭に血がのぼるのを感じながらも、「これで別れられる」と思った俺は、本当にクルミとは一生、気持ちが交わることがないと確信する。
そう、「これで俺は自由になれる。」
今日もクルミはどこかへ行っている様子だ。
俺は笑いたい気持ちを抑え、携帯をかける。
「・・・・・。なに?」
「もう、お前、帰ってくんな。」
「はぁ?」
まだ何か声が聞こえる携帯を、2つ折りにする。
さぁ、ここから、悲劇の夫を演じなくては。
いつもの日曜、いつもの午後。
退屈で、解けきれないスープの具のような生活をしていた日常が、少しずつ音をたてて忙しくなる音を聞いていた。