大理石の彫刻。
フェルメールの絵

(ここ、どこ??)
「・・・何してるの?」
(サイーダの言った事、ほんとだったんだ。)
リンは信じていたものの、唖然としていた。そして、後から聞き覚えのある声。
「ねぇ、君?何してるの?」
突然の訪問にも驚いた様子はなく、静かにラスク王子が聞いた。
(な、何してるって言われても・・・)
リン困惑振りを見て少し微笑みながら、質問を変える。
「ねぇ、何処から来たの?」
「・・・あっち・・。」
「あっちって・・・!ねぇ、ソレ、何??」

(ソレ??)

ラスクの指差す方を見る。
「脚じゃん。」
「足???しっぽじゃないの?」
そう、「会いたい」と願った時と同じ姿で彼女はいた。
海の中では生活しやすい姿であるが、陸に上がると邪魔になる、人魚の姿。
「しっぽ~~~(怒)どう見ても立派な脚じゃない!!」
「・・フ~~ン」
興味があるのか、興味がないのかわからない答え。
彼はそう言うと確かめるように脚を触った。
「きれいなウロコ・・・や、脚だね。思ったよりも柔らかいんだ。」
「!!ちょっと!やめっ」
不器用そうな手がゆっくりとリンの人魚のソレを触っていく。
「・・あっ・・」
誰かに触られる事なんてなかったリンは、今までに感じた事のない感覚に襲われた。
「??どうかした?」
「べ、別に!!」
「顔が真っ赤だよ??」
そう言われてもっと赤くなるのを感じる。
(あ~~なんだって言うのよ!)
まだ追求してくる彼の視線から逃れるように、目をそらした。
「もしかして、感じた??」
笑いを含みながらそう言われて、リンはさすがに恥ずかしさを感じた。
「触られた事ってなかったの?」
「どれもそんな事しないわよっ。」
「へぇ~、綺麗なのにね。」
その言葉にまた戸惑いを感じながらも、少し気持ちが落ち着いてきた。

会いたい気持ちとはうらはらに、会ってどうするんだという声が聞こえてきたのも確かだが、今こうして会えたことにリンは興奮していたのかもしれない。
もちろん、ラスクにとっても、もう一度会いたい人が突然現れ、触れようと思えば触れられる。
表情とは別に興奮している事は確かで、強固な理性が歯止めの役をしていた。
「あの時、君が僕を助けてくれたんだよね?」
「覚えてたんだ。」
「忘れないよ。あの歌もう一度唄って欲しいな。」
「へ、ヘンな事覚えてないでよ!」
恥ずかしさのせいかだんだんと体が乾いてきた。それは人魚である彼女にとっては致命的なことだ。
「ねぇ、大丈夫?尻尾の色が変わってきてるけど」
「・・・尻尾じゃないって・・・」
言い終わらない間にリンの瞳から彼の姿は消えていた。


冷たい・・
生き返る・・心地いい水の音、でもいつもの波の音とは違う。
水の感触にリンは気がついた。
「落ち着いた?」
黒目がちな瞳がジッと見つめている。慌てていたんだろう、彼の前髪が濡れていた。
だんだんとリンの記憶がよみがえり、ここがどこだか思い出したように脚を動かした。
その様子を見てほっとした様に、ズルズルとバスタブにもたれる。
「ほんとに心配したんだからね。」
彼がとても動揺している事に不思議さを感じながら、バスタブの中からお礼を告げた。
「ねぇ、名前、なんていうの?」
優しくつぶやく声に、まるで催眠術をかけられた様に素直になってしまうから不思議だ。
今まで考えていた事も、これからしなければいけない事も全て、どうでもいいものに思えてくる。

人間と人魚だなんてどうでもいい、世界に二人だけ・・・。

現実に戻されたのは、優しいキスだった。

「もっと、君の事が知りたいよ。」

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