「なんや、なんでこんなところまで来たんや??」
ひしゃがれた声でそう聞かれるたび、何ともいえない匂いが漂ってくる。
髪はもう何年も洗っていないようで、髪というよりも太いシッポのようだ。顔はポチャッとしてどこに目があるのかわからない。

(魔女ってこんな顔なんだ・・・・。それにしてもひどい匂い!!)
「何でそんな事、話さないといけないのよ。」
「ひゃひゃひゃ・・・・。まぁ、いいがな。」
(・・もう、ほんとに人魚は海上に出たら行けないなんて、誰が決めたのよ。)
魔女が見つめている。小さい目は魚の目のようにも思える。
「・・誰が決めたのかは知らんが、人魚がココに来たのはもう150年ぶりかのぉ。」
「・・!!今・・・。」
「わしゃ魔女だからなぁ~。なんでもできる。」
ゲッッ!

その日からリンと魔女のおかしな共同生活が始まったのである。


1、部屋の掃除
2、海底魚の世話
3、話し相手
4、その他もろもろ
耳にすると老人介護のようにも聞こえるが、これらが今のリンの仕事

「ねぇ~、掃除なんて魔女なんだからパパッとできるんじゃなの?」
「ひひひ、そうじゃなぁ~」
「・・やっぱり・・。もう、じゃ、パパーっと・・・」
「ぶつぶつ言っとらんと、さっさと済ませろ。まだまだ仕事はあるでの。」
「はぁ・・・。」

怖いと噂されていた魔女が、人魚使いが悪いだけだとわかり、ほっとしたのもつかの間。
日ごろしない家事手伝いに悪戦苦闘する毎日である。

「おおい、リン、ちょっとコレを持って行ってくれんかの」
「?なに?」
リンに黄ばんだ小さい小包を手わたす。思ったよりも重い。
「緑のドームに「ソラ」というじいさんがいるからな、そいつにソレを渡しに行ってくれ。」
「また~。そんなの魔法でパパーっと・・・。」
「無駄口を言う暇があったら、はよー行け!」


緑のドームまで、約1日半かかる
リンはサイーダに渡された小包と、当面の食料、「もし、困った事が起きたら、コレに聞いてみい」と渡された巻貝を持って旅立った。
死の海を後にして、だんだんと海草が増えてきた。
「死の海」はその名の通り暗い黒い海で続いていたが、緑のドームは海水が澄んで日が海底まで届き海草が育っている。
「もうすぐかな??」
もう、かれこれ8時間以上泳ぎっぱなしだ。
ちょっと休憩する事にする。
ふと目にした白い生き物にリンは手を伸ばした。
これがいけなかった。

白いものは待っていたかのように、リンの手首に巻きつき、気づかなかった大きな洞穴へと引きずり込もうとする。
必死に抵抗するが、一度くっついたら二度と取れないかのように、剥がそうとするが無理だった。
そして、洞穴の中へ・・・・。

グゥウウウイイン!!!!

もうダメだと目を閉じかかった瞬間、すごい音をして白いものはリンの手を離れた。
「大丈夫か??」
そう聞いてきた声の主は、リンのすぐそば・・・。
「あんた、誰???」
「助けてやったんじゃね~か。礼はねぇーのかよ。(怒!)」
歳は10代前半、目も髪も肌も真っ黒な青年。一つ不思議なのは、体が貝から出てたこと。しかも、リンの頭の大きさくらいしかない。
(サイーダからもらった貝じゃない??)
「お前が飲み込まれたら、俺も危ないじゃないか!!」
「や、やっぱり、あんた、貝・・・」
「貝って言うな!俺様には”ゴウシュウヘソアキエビスガイ”っていう立派な名があるんだ!」
「?ごう??へそ??」
「ゴウシュウヘソアキエビスガイ!!!」
「はいはい。。ヘソアキくんね。ありがとう、助かったわ。」
「!!もう、絶対助けてやらねーからなっ!」
「そんな事言ってもいいの~~??サイーダに言いつけようかなぁ~」
ゴウは貝の中に入りかけて、恨めしそうに振り向く。
「てめ~~。覚えてろよっ」
ぶつぶつとまだいい足りない様子でいるゴウだが、以外にもサイーダには弱いらしく、リンの言うとおり目的地へと急いだ。

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