それは突然やって来た。
もう少しで彼の国に着く予定だった、その日。
嵐は治まる事無く、大きな大きな船をも深い闇へと呑み込んでしまったのだ。
彼の名は「ラスク」一国の王子である。
父である王の頼みで隣国に行った帰りの出来事だった。
彼も当然の如く、深い闇の中へと呑み込まれ、必死に浮いていた木につかまった。
そしてそこで力尽きたのである。
 
そして、彼女と出会った。

・・・・あきらめたくない・・・・・

『・・・・・んっ・・・?なんだろう?・・』

・・・・・いつもそこにある空のように・・・・

『・・う・・た??』

 
決して上手いとはいえない歌声であったが、なにか心に響いてくる。
そんな歌声だった。

いったい誰が???

少しだけ雲もに隠れていた月がでてきた。歌声の主はそんな月明かりですらはっきりわかるほど・・・・・。
『綺麗だ。』

唄い終わるまで、綺麗な横顔を見つめる。
唄い終わり、目が・・・・・あった。

「・・・・。」
彼女は驚いたように、目を見開いている。
その瞳の中には、月と、たしかに僕がいた。

「いい歌、だね。」
何も言わなければ良かったのかもしれない。その声にははじかれたように、彼女は行ってしまった。
そして、後悔の念にとらわれながら、また深い眠りについた。


気がつくと見慣れた部屋。
  僕の部屋・・・・・だ。
あれから朝になり、入り江を通った人に発見されて、運ばれたらしい。
 それにしてもひどい嵐だった。僕以外に助かったものはいるだろうか?

「ラスク王子!」
ノックもなしの訪問。母だ。
「良かったわ!ほんとうに。もう・・・・もう、連絡を聞いたときにはダメかと・・・。」
「母上、ごしんぱいをおかけして、すいませんでした。」
「そんな事はいいのよ。無事に帰ってきたんですもの。」
涙ながらに喜ぶ母親の横にもう一人。
歳は十代。綺麗な長い髪の毛。今まで異性に興味が少なかった彼も、ハッとするほどの美少女。
「母上、こちらの方は??」
「あぁ!うっかりしていたわね。ごめんなさい。こちらはアス国の、」
「「ダリアです。ラスク王子、本当にご無事でなによりですわ。」
ダリア姫は上品な声でそう告げた。丁度アス国の訪問中だったらしい。
「ありがとうございます。お父様はお元気ですか??」
「ええ!今日はこちらに来られないとの事で、失礼ながら私が変わりに来させていただきました。」
活き活きとしたかわいい姫だと思いながら、昨日の歌声の人を思い出した。

綺麗とはこの人のことをいうのかと思うくらい、「きれい」だった。
もう一度、会いたい・・・・。