なんなのよ~~!」

さらさらストレート、シャープな顎のライン、人を見ぬくかのような瞳、そして自慢の長い脚・・・。
輝いたうろこが付いた綺麗な脚。
そう、彼女は、人魚なのである。

「なんで外に出ちゃいけないわけ??」
「しょうがないじゃん、今は・・・さ。」
こちらの少年はいかにも真面目。こうと思ったことは貫くタイプのようだ。
悪く言えば、妥協は許さないともいえるが。

「あ~~!!外に行きたい~~~!!」
「こういう時こそ、歌の練習でもすれば??」
「うぅうううう~~!!!」

さらっと色素の少ない髪をかきあげながら、サイをにらむ。

「君の好きなようにすればいいよ。でも後で泣いたって知らないからね。」

 ほんと、サイはまじめなんだから。
 そりゃ、少しは練習しなくちゃと思ってたけどさ~。
 はぁ~。なんにもする気にならないんだよね・・・。



ここは海の世界。

海の生きもの達が暮らしている。
その中でも一等珍しく美しい生き物が、人魚である。
姿は人間に似ているが、唯一違っているもの・・・
2本の足が魚のようになっている。
それをのぞけば、何ら変わりがないのだが。
人魚である彼らから見ると、人間の方が不思議な生き物なのかもしれない。


この2ヶ月余り、海は大荒れ
唯一の楽しみである、月光浴ができないため、彼女はイライラとしていた。
原因の理由としてもう1つ。
7月になると、「グローバル」という、人魚達がここぞとばかりに集まるお祭りが開催される。
約3ヶ月間のこのお祭りはもちろん森にとっても楽しみなのだが、今年は少し違っていた。
「グローバル」の前夜祭で彼女が抜擢され、歌を披露しなくてはならなくなったのだ。
本人はもとより、周りも驚いたのはいうまでもない。

彼女は決して歌が上手いと言えるものではないからだ。

サイが練習と言ったのも、こうした訳があった。
この祭は、いろいろな地域から集まってくる人魚たち、それぞれのお披露目の場である。
その前夜祭のソロはみんなあこがれているものなのだ。

たしか、去年はトキがしたんだよなぁ~~。

「トキ」はリンの昔からの友人の一人である。
オールマイティーになんでもそつなくこなし、去年もみごとにソロを唄いあげた。

 なんで今年は私なのよ~。

泣きそうになってくる気持を抑えながら、事の重大さに逃げ出したくなる
しかし、ここは責任感の強い彼女。そんな無責任な事はできるはずもない。

 はぁ~。練習しないとなぁ~。

重い気持と一緒に重い腰(っていいのか・・)をあげながら、いつもの場所へと向う彼女であった。