彼女と待ち合わせの場所に向う途中、フト目に付いた1つのガチャガチャ機
そういえばよく小さいころ、欲しいものが出てくるまでがんばったよな。
あの頃は小遣いも少なくて、少しずつ貯めては挑戦してたっけ。
社会人になった今、欲しい物はある程度だったら買える。
そう、わけなくこの中の景品、全部だって買える。


待ち合わせの時間には、まだ早い。


最近の景品ってどんなのだろう。
俺の時は、消しゴムや、ミニカーなどの小さなおもちゃだったっけ。


『魔法のおもちゃ』



アニメか何かのおもちゃだろうか?
透明なカプセルの中身をジッと観察。
その中身は、おもちゃのようではないみたいだ。
俺は何が欲しいでもなく、どうしてもそれをして見たい衝動に駆られた。


待ち合わせの時間には、まだ間に合う。


財布を出し、小銭を投入する時、なにやら注意書きがあるのに気がついた。


『お客様、一回のみとなります。』


ガチャガチャって、欲しい物がでるまで何回もして、利益をあげるんじゃないのか??
こんな注意書き見たことない。

まぁ、中身が何であるのか知りたいだけで、景品が欲しいわけじゃない。
俺は小銭を2枚投入し、昔やったときと変わらない音を聞きながら、少しドキドキする。


コトッ

中身は重たくないようだ。
カプセルを開けてみると、一枚の紙切れが入っていた。

『あなたは、今から透明人間に変身します』

は???
透明人間?
って、あの映画みたいな??

騙された!200円も、こんなくだらないモノに使ってしまった事に後悔し、腹が立つ。


待ち合わせの時間まで、もう時間がない。


急いで待ち合わせの場所に向う。
まだ、彼女は来ていないようだ。


待ち合わせの時間まで、あと1分
彼女はまだ現れない。


待ち合わせの時間まで・・・。


もう、時間はとっくに過ぎている
しかし、彼女は現れない。


そうだ、電話をしてみよう。
なんで思いつかなかったのか、不思議なくらいだ。
胸ポケットに入った電話を探し、かける。

プルプル・・・プルプル・・・

虚しい音だけが響く。



と、どこかで聞いた事のある音楽
彼女の着信音だ。
彼女はここに来ているのか?

あたりを見渡すが、いない。でもまだ鳴り止まない着信音。
音を頼りに探すしかないか。

右、左・・・。こんなにうろうろとしていたら周りの人が不審がりそうだなと思ったが、誰も振り向く
人はない。
と・・・・あれ?

ウインドウを過ぎようとした時、違和感を感じた。
戻って・・・・見る。



う、映ってない!?




周りをキョロキョロする。俺の後の通ったやつははっきりと映っているのに、どういうわけか俺
が映っていない。


待ち合わせの時間から、1時間経過。
彼女とはまだ連絡が取れない。



~♪~♪



呆然としながらその場にたたずんでいる俺の耳に、一際大きく着信音が鳴り響いた。
なんとなく、彼女の香水の匂いがした気がした。

「・・千紗??」

周りを見ても、何も見えないのに、つぶやく。


「勇太??いるの???」

確かに彼女だ。
でも、姿が見えない。
と、腕をつかまれた感じがして、ハッとなる。
「これ、勇太だよね???」
「・・・ち・・さ??」
「うん。」
「なん・・で・・・??」
「ねぇ、勇太、もしかしてカフェの隣にあるガチャガチャした?」
「・・・って千紗も?」

千紗によるとあのガチャガチャをしてから、様子が変だということだった。

それは俺も同じ事で。
出てきたカプセルの中身を思い出す。

『あなたは、今から透明人間に変身します。』

透明になったって事なのか。


「でも、透明人間だったら、他の人には服だけが浮いて見えてるんじゃないのか?周りにいる
やつら、全然驚かないぞ?」
「私が思うに、あの時、自分の身に通ていたもの全てが、透明になったんじゃないかしら。」
「たしかに・・。そうとしか考えられないな。」


注意書きになんて書いてあった?

『お客様、一回のみとなります。』

という事は、この先俺達が戻る事はないということなのか。
悲観的になりそうな俺に彼女はこう言った。
「また、あそこでガチャガチャをする人を待つしかないのかも。」
「待ってどうなるんだよ。元に戻るのか?」
「もしもよ?カプセルの中身が「魔法を無に戻す」だったら???」
「それなら、また「透明人間」だったら?」
「だって、もう、それしか方法はないじゃない!!」

確かにそうだ。一人一回という事はもう一回してしまった俺達はできないわけで。
鏡にも映らない俺達を誰かが何かをしてくれるわけでもない。
2人で、角のガチャガチャ機を目指す。

「でも、勇太が一緒で、良かった」
「・・・。」
「私一人だったら、生きていけなかったよ」
「大げさだな」
見えないけれど、感じている全てで俺は彼女に答えた。



待ち合わせの時間から、四季が変わろうとしている。
何人かがガチャガチャをしていったけれど、まだ俺達の魔法は解けない。

でも、彼女がいるから幸せだ。


待ち合わせの時間から、何年もの月日が過ぎた。
まだこの場所にガチャがチャ機が置いてある事事態、不思議なほどだ。
まぁ、魔法のカプセルが入っているのだから、この機械も魔法で出来ていても不思議はない。

運命が訪れる日まで、俺達はこうしてずっと待っている。
その日がいつかは、誰にもわかりはしないのだろうけれど。
   
                                               完