高級マンションとは程遠い、駅近の文化住宅。
派手そうなのにこんな所に住んでるんだ。ちょっと意外。
潤が部屋の鍵を取り出した時、まんまと罠にはまってしまった事に気づく。
私、いったい何やってるんだろう。
病気が完治して喜んでいたのが、遠い昔のように感じる。
まさかこんなところに泊まるなんて、夢にも思っても見なかった事だ。
部屋は思ったよりもきちっとしていて、簡易ベットにパソコン机・・・唯一、変わったところといえば、壁にかかったはがきサイズの絵。
大きな木に小さな女の子が登っている。
男の子の部屋に飾っておくには、違和感がある。でもなぜこの絵を飾っているのかわかる気がするくらいそこに立つだけで癒された気持ちにさせてくれる。
不思議・・・・。
「あ、その絵?気に入ってくれた?」
潤の前だとなぜか強気になる私も静かにうなずく。
「それ、あいちゃんだよ」
「え?」
「あの日、初めて会った日からずっと忘れられなくて、それ描いたから」
コップに水を注ぎながら、サラリとそういった潤はたぶん、照れていたんだろう、毎度見つめる目線をはずしていた。

この絵を描いたのは潤。
そして、ここに描かれているのが、私??
何をするのかわからなくて、何かしそうで、怖い。
怖って感じながらもなぜか拒む事が出来ないでいる。
この人は怖いのか、優しいのか・・・。
ただ、要領が悪いだけなのか、計算なのか、わからなくなってきた。
それくらい、絵には迫力があり優しさがにじみ出ていた。

「ねぇ、お腹すいてない?何か作るよ」
意外にも潤の作ってくれたものはおいしくて、十分にお腹を満たしてくれた。
「そういえば、一緒にいた女の人、どうしたの?」
「あ~っ。置いてきちゃった。」
やっぱり、こういうやつだ…。