トンネルを潜ろうとしてようやく、後の人影に気づいた。

「やっぱり、好きだったんだ」

やっぱりって何よ、あんたが私の事、どれだけ知ってるって言うのよ。
悔し涙なのか、後悔の涙なのか自分でもわからないうちに、溢れてくるソレをぬぐう事もせず、振り返り潤を睨んだ。
潤は何か言いかけようとしたが、その後は何も言わず一緒にそのまま駅に向って歩いた。

駅はもちろんこんな時間に電車が走っているわけもなく、酔っ払って終電を乗り過ごした人が端で寝ていたり、携帯電話をかける若い人、タクシーを待つ人。
あんなに昼間は人でごった返しているこの駅も、今では眠りについているようだ。
始発の電車を待つ人の中に入ろうとすると、呼び止められた。
「ねぇ、俺の家、ここから近いんだけど、来る?・・・って来るわけないか。」

当たり前じゃない!あんたには前科があるんですからね。しかも、何で私が知らない男の家なんかに行かなきゃならないのよ。
無視して壁を見つけ、体育座りをして顔をうずめる。
今日一日、厄日なんだわ。きっと。

潤の気配も感じなくなり、少し落ち着いて来た頃、周りに数人の気配を感じて頭を上げてみる。
前に立って怖い系の人が2人、声をかけてきた。
「なぁ、姉ちゃん、これからどっかいかん?」
「こんなところで寝てたら、風邪ひくで~~」

やっぱり、今日は厄日だ。
断ろうと腕を伸ばすと、今度はその腕を掴んで無理やり立たそうとする。
「・・っ!やっ!!」
「ごめん、おっちゃん、こいつ俺の連れやから」
一番、どうでもいいヤツなのに、声を聞いてホッとした自分に腹が立つ。
助けて欲しいけど、こんなヤツボコボコにしてやってっ!
「おぉ!潤やないけ!そうけ、お前のコレか」
「堪忍なぁ~」
そう言って2人は消えていく。予想外の展開に唖然としてる私を見て、潤は「ほらな」と目で語っていた。
こいついったい何者なのよ。
類は友を呼ぶって事!?

「またここにいたら、あんな連中が寄ってくるよ?」
あんたも、あんな連中の中の一人なんですけど。
「何?俺が怖い?」
そうよ、怖いわよ。毛が逆立つほど、怖い。
「大丈夫、あんたみたいなオタフク、襲わないから」
「・・・・!!」
またボルテージが上がる。コイツといたらなんでこんなに熱くなるんだろう。
「あいちゃんのエッチ」
わかったわよ~!!行くわよ、行けばいいんでしょ!こんなやつ、怖くなんかないわよ!
後から目を吊り上げてついて行くわたしを見て、潤は初めて微笑んだ。