今日は最終検査の日。

今日、異常がなかったら、前と同じように過ごしていいのだ。もう病院に通う事もないだろうし、薬も飲まなくていい。
検査が一通り終わり、結果を待つ間、大丈夫だと心の中で唱え続ける。

「愛くん、今までがんばったね。もう大丈夫だよ」
「良かったわね!植田さん」
先生と看護婦さんの声や拍手が遠いところから聞こえてくる。
お世話になりました。と頭を下げるとずいぶん我慢していた熱いものがこみ上げてきた。
もう私は大丈夫。
これからも生きていける。

喜びに浸りながら玄関を出て携帯の電源をつける。
親に電話をかけようとして、留守電がある事に気がついた。
「先輩からかな?」
留守電を聞くと予想通り先輩だった。
『…愛?どうだった?今日仕事早く終わらせるからいつものところで…』
声の主、謙一はそう告げた。
私の足はより一層軽くなる。


6歳年上の成宮謙一はサークルOBで、私が大学3年の時に知り合った。
それから3年間付き合っている。
夏に就職が決まった時、生まれて初めてプロポーズを受けた。

「あと2年したら僕達、結婚しないか?」
私も先輩のことが大好きだったし、就職してすぐに結婚する気もなく、あと2年という猶予が私にはあってるような気さえしていた。
就職して2年間がんばって、ひとり立ちしたい!
そしてこの人と結婚!
まぁ、それもあの春から崩れて言ったんだけどね。
今私は24歳、彼は30歳。
私がもし、今から就職しても、もう彼は2年なんて待っていてくれないだろう。
しかも、この年で就職するのはかなり難しい…。
最近はもう、病気が治ったら結婚してもいいか。なんて考えてる私がいる事も確かだ。
彼は入院していた時、頻繁にお見舞いに来てくれたので、私の両親とも会っていた。
彼が私のことを、彼の両親に話しているのかは知らないが・・。